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奈良地方裁判所 昭和54年(ワ)261号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【説明】

訴えの提起に訴訟能力の欠があるときは、その欠缺の補正が可能な限り補正させるのが建前である(民訴法五三条、小室直人=賀集唱編・基本法コンメンタール民事訴訟法七五頁〔辻忠雄〕)が、本件は、補正不能として、訴えが却下されたものである〔同書六六頁〔伊東乾〕参照)。珍しい事例として紹介する。

【判旨】

第一本案前の被告らの主張(原告の訴訟能力の有無)について

一<証拠>及び弁論の全趣旨を総合すると以下の事実を認めることができる。

1 原告は、昭和四七年ごろから、精神分裂病の症状である被害念慮、関係念慮が出現していたものであつて、昭和五二年八月一七日ごろ、隣家の主婦に対し傷害事件を惹き起こしたことから、葛城区検察庁検察官Aは、同月二四日奈良県知事に対し、原告につき、精神衛生法に基づく精神障害者等の通報をしたこと、そして鑑定医Bは、精神衛生吏員Cの立会のもとに同月二五日右検察庁において、原告と約一時間に亘る面接を行い、かつ、右区検察庁から提供を受けた資料等に基づき原告は幻覚、妄想を伴う精神分裂病であるとの鑑定をしたこと、

2 原告は、昭和五四年三月一三日、奈良地方裁判所に、奈良県、国、社団法人奈良県医師会、同日本医師会を被告として、金五、〇〇〇万円の支払を求める訴え(同裁判所昭和五四年(ワ)第五二号損害賠償等請求事件、以下「前訴」という。)を提起し、右訴訟における請求原因として、概略

(1) 昭和五一年一二月二九日以来、何者かによつて、原告の脳に対し、超音波衝撃波攻撃(被害体験としては極めて耐え難い「鋭角音」を惹起させられる。)及び超音波変換音声の脳への放り込み(男女の声で、種々の言葉が脳内に放り込まれる。)が行なわれるようになつた。

(2) 右二つの攻撃により、原告の行動は精神分裂病なるものの症状と一部形態を同じくしているが、精神分裂病は実在せず、真相は、原告に対して行われているように、精神衛生管理に従事する精神科医師らが、前記超音波攻撃により脳の完全捕獲を行ない、ありもしない精神病者を作り上げようとはかつている犯罪行為にほかならない。

等の主張をしたが、同裁判所は、昭和五四年八月三日、前記鑑定結果及び原告の主張内容自体から、右訴え提起時において、原告は幻覚、妄想症状を呈する妄想型精神分裂病であると認定し、右訴えは意思能力を欠く状態でなされたとして訴え却下判決の言い渡しをし、同判決はそのころ確定したこと、

以上の事実を認めることができ、他に右認定に反する証拠はない。

二本件訴訟における原告の態度・主張等について

1 弁論の全趣旨によれば、当裁判所は、第一回弁論期日において職権により原告の精神衛生鑑定を行う旨決定し、昭和五五年二月一八日、医師Dに対し、原告の本訴提起当時の精神状態及び右当時における意思能力、訴訟能力の有無につき鑑定を命じ、同医師は右鑑定を行うため同年三月二四日、同年四月二一日及び同年五月二八日の三回に亘り、原告に対し、同医師の勤務するE病院に出頭するよう通知したが原告は右各期日に出頭せず、右鑑定を拒否したこと、このため右鑑定は不能に終つたことが認められ右認定に反する証拠はない。

2 原告の本訴の提起は昭和五五年九月一〇日付をもつて当裁判所になされその主張は別紙<略>のとおりである。

三以上の事実によれば、原告は、昭和五二年八月二五日、鑑定医Bの精神鑑定により、精神分裂病と診断され、また昭和五四年八月三日奈良地方裁判所から言い渡された前訴の判決においても右分裂病に罹患していると認定されたことが明白であるうえ、本訴提起が前訴判決後わずか約一カ月のちになされており、その主張内容自体も、精神分裂病が超音波攻撃により医師達の手で作出されたものであり、原告自身その害を蒙つているという共通の幻覚・妄想に根ざしている点で前訴提起当時と同一の症状を呈しているものと認められ、しかも前訴の判決言渡後に原告の病状が寛解した形跡を認めることができないところ、本訴において原告はその精神鑑定を拒否し、他に右鑑定に代えて、意思能力、訴訟能力の存在を何ら証明することがない。

してみると、原告は、本訴提起時においても妄想型精神分裂病に罹患していたものと認めるほかはなく、原告に意思能力、訴訟能力がないこと、右能力の補正は不可能であることが明白であるから、結局本件訴えは、意思能力なき者が提起したものとして不適法であり、却下を免れない。

(仲江利政 広岡保 三代川俊一郎)

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